私の尊敬している先生から『ことばのご馳走』Cという本を送っていただきました。感動する話がたくさん載っています。
そのひとつをおすそわけします。
『まさに天使の声だった。でも、それは中年の、すこししわがれた声だった。
雨が降りしきる中、市内でバスに乗った。乗客は7、8人。私を乗せて、バスはまさに発車しようとした。そのとき、小柄なおばあさんが席を立って慌てて降りようとした。70代半ば近い、腰の曲がった人だった。手に大きな荷物と傘。足許もおぼつかない。そのうえ床も濡れ、ステップも滑りやすい。
「あ、危ない! バスが動いたら・・・」他の乗客もただハラハラ見守るだけだった。その瞬間だった。車内にやさしい声が響いた。あたかも天使の声のようだった。でも、それは博多弁の天使だった。
「ゆっくりでよかとよ。バスは動かさんから・・・」この一言で安堵感が流れ、車内がいっぺんに和んだ。そして、乗客みんなが乗務員の背に感謝の目を向けた。』 |